ラムネは中小企業特有の清涼飲料です


What's ‘RAMUNE’.

 

 ラムネは日本で初めて製造された清涼飲料水です。ただいつ、どこで製造されはじめたかは、はっきりとはわからないそうです。その起源は、カステラや金平糖(コンペイトー)と同様に外国より伝来したものですが、これもいつ、どこに初めて来たのかはいろんな説があり、現在のところ幕末は1853年にアメリカのペリー提督が浦賀に来航したときにもたらされたという説と、1860年にイギリスの商船により長崎にもたらされたという説が、有力とみられています。
 ただ、このころのラムネは、コルクで栓をして、それを飛び出さないように針金でグルグル巻きにしばってあるものであったそうです(今でもシャンパンやスパークリングワインの一部に用いられていますね)。今のようなビー玉で栓をする方法は、イギリスのコットという人が「コルクより簡単に栓をする方法」として発明したものですが、その特許権が切れた1888年(明治21年)に大阪の徳永玉吉という人が研究・開発に着手し、以降日本でも爆発的な勢いで広まっていったのです。
 世界的には1892年にアメリカのウイリアム・ペインターによって王冠栓が発明されてから、ビー玉で栓をする「玉入り壜(びん)」はすたれていきましたが、日本では中小零細業者が主だったので、王冠用の新しい機械設備に投資するのが困難だったことと、風鈴のような音に清涼感を求める独特の文化にマッチしたこともあり、現在に至るまで「ラムネ壜」として伝承されてきたのです。
 西洋から渡来したものの、日本の風土に育まれ、継承されてきたものが「ラムネ」なのです。そんな明治前からの歴史や文化がいっぱい詰まったこの一本のラムネ、ゆっくりと時をかみしめるがごとく味わってみて下さい。

 

 「ラムネ」の名は、英語の「レモネード」が日本語風に語尾が消え、「L」が「ラ」の発音に聞こえてなまったものといわれています。「レモネード」−「レモネ」−「ラモネ」−「ラムネ」と、伝言ゲームのように変わっていったのでしょう。
 現在「レモネード」と称するのは、炭酸ガスを含まない調味したレモンジュースのことですが、当時のイギリスなどでは、炭酸水にレモン風味のフレーバーで香りをつけただけのものも「レモネード」と呼んでいたらしいです。
 もっとも、今の日本のラムネのほとんどは、「レモン風味」だけでなく、ライムフレーバーも加えた「レモン・ライム風味」で、すっきりと飲みやすくなっています。
 「ラムネ」の名が定着する以前は、炭酸ガスが泡立つ様から「沸騰水」と呼ばれたり、舌にジンジンときてヒヤーッとするところから「ジンジンビヤ」と呼ばれたりすることもあったそうです。
 今では立派な日本語になった「ラムネ」、実は俳句の季語にも使われるそうですよ。

 

「ラムネビンのビー玉はどうやって入れるの?」、というのは、ラムネ屋をやっていて一番多くうける質問です。コロコロと、心地よい音を奏でるだけではなく、「取り出せない」ということが、ラムネビンにおいてのビー玉の存在感をより一層印象深いものにしているのですね。
 もともとは、ラムネビンの胴部と口部は別々に作られていました。そうして胴部にビー玉を入れてから、職人さんが口部と‘ロウづけ’(細いガラス棒をバーナーであぶって半田のように溶かしてつなげる)をしてくっつけていたのです。が、これでは大量生産はできません。そこで今では、ビー玉が入るくらいの口の広いビンをつくって、ビー玉を入れてから、口部に熱を加えて柔らかくして最後にしぼる、という方法で作っています。とはいっても、普通のビンに比べれば、工程は複雑でかつ難しいものです。歩留まりも悪く、結構コストが高くついちゃいます。
 でも、やっぱり昔ながらのビンの形を継承してこそ「ラムネ」ですよね。大事に後世にも伝えていきたいです。
 そこで皆さんにお願い。飲み終わったラムネビンは、必ず販売店にお返し下さい。間違っても、「ビー玉」欲しさにビンを叩き割ったりしないで下さいね。

 

ビー玉で栓をするのが特徴のラムネ。このビンは実は究極のリタナブル(再使用型)ビンだって、ご存知でした?。
 皆さんが飲み終わってお店に返されたラムネビンは、ビールビンなんかと同様に、きれいに洗浄してから再使用されます。何回も何回も、繰り返し使われているのです(※最近ではプラスチックボトルや「ワンウェイガラスビン」と呼ばれる使い捨て専用のものもあります)。このような容器を、「リタナブルビン」と呼びます。資源浪費やゴミ処理の問題がクローズアップされる昨今、とっても「地球にやさしい」容器なのです。
 しかもラムネは王冠やネジキャップのビンのように、栓がゴミになることもありません。とっても賢い「究極の容器」なのです。
 そうなったのも、決して偶然ではありません。古い歴史をもつラムネビンですから、開発された頃はまだガラスはとても高価なものでした。だから回収して使うことがあたりまえの前提として創られたのです。そしてその後、充填の簡易さ、扱いの便利さを求めた多種多様な容器が開発されてきても、古くからのスタイルをずっと守り受け継いできたことによって、「地球にやさしい」容器となりました。いわば、ものを大事にした昔の人々の知恵が詰まっているのです。
 「充填の簡易な多種多様な容器」といいましたが、実はラムネは他のビンに比べて詰めるのがとっても大変です。飲み終わったビンを回収してきたときに、ちょっとでも中にゴミが入っていると、それを取り出すのにビー玉が邪魔をしてしまうのです。よく悩まされるのがタバコの吸いがら。逆さまにしてもビー玉がふたをしてしまうので落ちてこないし、フィルター部は水や洗剤で溶かし出すこともできません。結局最後は、針金状のものを使って人間が一本一本手作業でかき出すことになります。とっても手間がかかるのですね。ということはコストもかかるので、決して楽に儲かる仕事ではないんです。だから昨今の機械化・省力化・コスト削減の波の中で、製造をやめざるをえなかった業者もいっぱいいます。
 でも、めんどくさくて大量生産には向かないからって、缶やビー玉のないビンに詰めたら、やっぱり「ラムネ」じゃなくなっちゃいます。歴史を感じさせ郷愁を誘うラムネという飲料を伝承していくためにも、そして資源やゴミ問題が問われるこれからの時代に応えていくためにも、私たちはラムネ製造を続けていくべく頑張っています。
 そこでまた、皆さんにお願いです。飲み終わった容器に、ゴミや異物を入れるなんてことはしないで下さい。ご協力をお願いします(これはラムネ以外のビンでも同様です)。


 悠久の歴史と、先人の知恵と努力と、そして何よりも飲む人々の子供の頃の淡い記憶がいっぱい詰まった一本のラムネ、今度見かけたときには、どうぞゆっくりと心で味わってみてください。